昔、くじらぐもにのりたかった

暮らしとインテリアと、時々雑談

眠くなる場所 眠れない場所

自慢じゃないが、車の運転中に 眠くなったことは一度もない。

あの 動く大きな機械を 思うままに操縦している興奮と緊張感が

わたしをいつも 眠気とは無縁にしてくれる。

 

なのに、ハンドルを握らない となると

途端に状況は一変する。というか真逆になる。

 

運転席以外に座ろうものなら、もれなく忍び寄る睡魔。

そう、これはもう「忍び寄る」という表現がぴったり。

 

わたし、いつ寝ちゃったのよー?

 

寝ちゃった本人が 一番びっくりしてる。

 

 

それはデート中も 容赦なくやってきた。

カーナビなんてない時代、助手席に座る者の重要任務は

地図を見て

「次は右 そこを左」

と道案内することだけど

わたしったら そんなことしたら酔ってしまうじゃない?(知らんがな)

だから、せめて運転してくれる彼が眠くならないように

話し相手にならなくっちゃ。

 

そう思っていたの、いつだってホントに。

 

だのに、なぜなの?

いつからわたし、口開けて寝てた?

いやん、もう振られてまう。

寝ぼけ眼で となりを見れば

微笑んでいる彼。

付き合いたては、地図が読めなくても 

眠っちゃっても許されたよねー。(相手によるけど)

 

これ以外にも、寝たらいけない場面でやらかしたエピソードは数知れず。

 

たとえば、上司が運転してるのに助手席で寝ちゃって

デコピン食らったり。

この時は、お互いにびっくりした。

上司は図太いわたしに、わたしはデコピンと自分に。

笑って済ませてくれたから、よかったものの…。

 

それから、新卒で入社した部署の 新人研修で

先輩にくっついて 営業先をまわっていた時。

わたしは先様に挨拶してから、先輩の横で

ひたすら会話を聞くだけ という状況になり、

突然 首がガクッと落ちた。

谷底に落ちたかと思うくらいびっくらこいて

あっ!!!

0.1秒くらいで寝ちゃったことに気づき

バレないように大きくうなづくフリをして誤魔化した。

 

帰り道

「おまえは大物になるな」

という先輩の一言で、やっぱりバレてたことを悟った。

 

あぁ…

 

 

こんなわたしだが、どこでも眠れるわけではない。

寝具の具合や寝る場所などの ちょっとした変化で

眠りが浅くなったり 眠れなくなったりする。

 

だけど 大学ではうっかり

ワンダーフォーゲル部(略してワンゲル)に入部してしまった。

北アルプスだとか南アルプスだとか、日本各地のいろんな山に登る。

それだけなら最高!

でも途中、尾根の脇のテント場で

テントを張って寝なくちゃならない。

 

行ってみたらわかるけど

いや、ちょっと想像すればわかるのかもしれないけれど

当時のわたしは 

テント場が平地じゃなかったり

ゴツゴツした固い岩や石がいっぱいの地面だったり

そこで19時に寝て3時に起きるとか 

それがどういうことか 想像できていなかった。

 

テント場に着いて、食事をつくって食べ終わったら、間もなく就寝。

少人数のパーティーだと、テントは男女一緒。

これだけでも寝る自信ないのに

寝袋に体をくるまれて、ツタンカーメンみたいな体勢で

傾斜のある所で寝るって

もう絶望的条件。

 

でも あら不思議。

わたし以外はみんな

スヤスヤと寝息をたてている。

それを聞いているうちに、眠れないことに焦り始める。

3時には起きて、ご飯食べたらまた歩かなきゃいけないのに。

体力回復しとかないといけないのに。

 

まんじりともしないまま起床のアラームが鳴り

ヘロヘロで山歩き なんてことは ざらにあった。

 

冬山では どこもかしこも真っ白な雪原にテントを張って

ナイフを持って寝ろと言われた。

雪崩が起きたら、そのナイフでテントを切り裂いて

脱出するためだ。

聞いただけで 眠れなくなる。

 

ワンゲル絡みで変わったところでは、「駅の待合室」があった。

早朝から行動できるように

前日の夕方までに 登山口の最寄りの駅まで行って

(大抵は小さい駅で終電も早い)

そこの待合室で寝袋を広げて眠るのだ。

今それをやったら怒られるのかな?

当時は 寝るでしょ、そりゃって感じで

平気で寝ていた。

正確には わたしは転がっていただけだった。

 

 

あれから ウン十年。

今は カーナビもあるし

助手席の息子が夫の話し相手になってくれるから

わたしは後部座席で 気兼ねなく睡魔に身を委ねている。

 

山の尾根や雪原で眠ることも 多分もうない。

 

慣れ親しんだベッドで眠る幸せよ。

 

それでも 加齢とともに

睡眠力というか、睡眠の質が着実に低下してきた。

わたしの場合 寝つきはいいが、眠りが浅い。

 

泥のように眠り、気づいたら休みの日の夕方で

損した気分になる なんてことはもうないにしても

 

朝まで一度も起きることなく ぐっすり眠る

という ささやかな夢を抱くわたしは

うつらうつらしながら いつの間にか 

眠れない森の平和なオバサン になっていた。