妄想の扉
彼と出会ったのは新緑が眩しい季節、よく晴れた日の夕暮れだった。 彼のフレンチ・ブルドッグは クリーム色の毛並みがきれいでまだ小さかった。 短い足でよちよち歩いたかと思うと ふいに立ち止まる。 その気まぐれに辛抱強く付き合って 長身の彼が歩幅を小…
アナウンサー さぁ、今週もやってまいりました、立体パズル選手権! トップバッターは、関東地区代表クラゲ選手です 相変わらず鋭い眼光を放って、入場です 解説者 そうですねー 今大会には、相当な意気込みで挑んでいるはずですからね とてもいい表情だと思…
この歳になってもさぁ、ジタバタすることってあるよ 本当にこれでいいのか とか 今じゃないんじゃないか とかね まぁ これに関しては もう自分の中で答えが出てる 前に進むしかない それはわかってる でも だからって 勢いでどうにかなる話じゃないの それは…
セミって うじゃうじゃいて うるさいし 最期にとち狂ったように飛び回んじゃん だから こわくて 苦手 てか 知ってた? セミが鳴くのは オスの求愛行動なんだって そう、キューアイ 愛を求めてんの 愛だって、チョーウケるんだけど でさ その必死な感じが 奇…
もう長いこと、私はある組織から逃げ続けている 逃げるために 別人になる でも 別人になるのは、それほど難しくない その気になれば、その覚悟さえあれば、誰にでもできること え? そんな必要ないですって? そうかもしれないわね、確かに まぁ、私みたいな…
いらっしゃいませ 「壁の穴 ミステリークラブ 2号店」へようこそ 私、本日のナビゲーターを務めます「K」と申します 少し離れた別室にて、お客さまをモニタリングしながらご案内します お客様さまの声はこちらにも聞こえていますので、どうぞご安心を さて…
いらっしゃいませ 地味な話をお求めですね お顔の色が少々優れませんね… では地味レベル3「ばね指のお話」を処方いたしましょう * * * 左手の親指がばね指になりましてね。知らない人が聞くと「指の進化系」的、ハイブリッドな指を想像しちゃうかもしれま…
軽く手を挙げて合図する彼を、奥のテーブルに見つける。 「久しぶりね」私は少しだけ口元を緩めた。どうして別れたんだっけ。ずっと思い出せなかった。だから、もう一度会うことにしたのだ。 目尻の辺りに皺が増えたけど、端正な顔立ちは昔のままだ。私はコ…