昔、くじらぐもにのりたかった

暮らしとインテリアと、時々雑談

妄想の扉

メイプル・ストリート物語

彼と出会ったのは新緑が眩しい季節、よく晴れた日の夕暮れだった。 彼のフレンチ・ブルドッグは クリーム色の毛並みがきれいでまだ小さかった。 短い足でよちよち歩いたかと思うと ふいに立ち止まる。 その気まぐれに辛抱強く付き合って 長身の彼が歩幅を小…

立体パズル選手権

アナウンサー さぁ、今週もやってまいりました、立体パズル選手権! トップバッターは、関東地区代表クラゲ選手です 相変わらず鋭い眼光を放って、入場です 解説者 そうですねー 今大会には、相当な意気込みで挑んでいるはずですからね とてもいい表情だと思…

真夏の蜃気楼 ある女のひとり言③

この歳になってもさぁ、ジタバタすることってあるよ 本当にこれでいいのか とか 今じゃないんじゃないか とかね まぁ これに関しては もう自分の中で答えが出てる 前に進むしかない それはわかってる でも だからって 勢いでどうにかなる話じゃないの それは…

真夏の蜃気楼 ある女のひとり言②

セミって うじゃうじゃいて うるさいし 最期にとち狂ったように飛び回んじゃん だから こわくて 苦手 てか 知ってた? セミが鳴くのは オスの求愛行動なんだって そう、キューアイ 愛を求めてんの 愛だって、チョーウケるんだけど でさ その必死な感じが 奇…

真夏の蜃気楼 ある女のひとり言①

もう長いこと、私はある組織から逃げ続けている 逃げるために 別人になる でも 別人になるのは、それほど難しくない その気になれば、その覚悟さえあれば、誰にでもできること え? そんな必要ないですって? そうかもしれないわね、確かに まぁ、私みたいな…

その穴、のぞきますか? 〜ちょっと不思議なお店へようこそ〜

いらっしゃいませ 「壁の穴 ミステリークラブ 2号店」へようこそ 私、本日のナビゲーターを務めます「K」と申します 少し離れた別室にて、お客さまをモニタリングしながらご案内します お客様さまの声はこちらにも聞こえていますので、どうぞご安心を さて…

輝き疲れたあなたへ 〜地味な話を処方します〜

いらっしゃいませ 地味な話をお求めですね お顔の色が少々優れませんね… では地味レベル3「ばね指のお話」を処方いたしましょう * * * 左手の親指がばね指になりましてね。知らない人が聞くと「指の進化系」的、ハイブリッドな指を想像しちゃうかもしれま…

Hello, Goodbye

軽く手を挙げて合図する彼を、奥のテーブルに見つける。 「久しぶりね」私は少しだけ口元を緩めた。どうして別れたんだっけ。ずっと思い出せなかった。だから、もう一度会うことにしたのだ。 目尻の辺りに皺が増えたけど、端正な顔立ちは昔のままだ。私はコ…