軽く手を挙げて合図する彼を、奥のテーブルに見つける。
「久しぶりね」私は少しだけ口元を緩めた。どうして別れたんだっけ。ずっと思い出せなかった。だから、もう一度会うことにしたのだ。
目尻の辺りに皺が増えたけど、端正な顔立ちは昔のままだ。私はコーヒーを口に含み、喉を鳴らさないように慎重に飲み込んだ。緊張していると悟られたくなかったのだ。
しばらく取りとめのない会話をした。なんとなく深い話になるのを避けて、よそよそしい時間が流れた。だけど、このまま帰るわけにはいかない。
コーヒーはとっくに冷めていた。その頃にはもう、すっかり思い出していた。別れた理由を。彼はいつだって自信たっぷりだった。正しすぎて息が詰まった。トゲがあった。私はそれで傷ついたけど、それは正しいトゲだから、傷つくのは私が弱いせいだと思った。
さよなら。それでもあなたから、いろいろ学んだから。忘れないわ。ううん、あなたのことじゃなくて、別れた理由を。
って、何読まされてるの?って感じですよね。すみません。
実は先日、昔手放した本をもう一度読みたくなって、買い戻したんです。エッセイなんですけど、その人のは結構読んでいたのに一冊も手元に残ってなくて。で、20年ぶりくらいに再び読んでみたわけです。それで思い出しました、手放した理由を。それをこまかくは書きませんが、もう一度読んでみて手放した過去の判断に妙に納得したといいますか。
もちろん、逆のパターンもあると思います。昔読んで、あんまり響かなかったりつまらないと思った本が、読み直してみたら面白かった、とかね。
これってちょっと恋愛に似てる…と思いました。こんな妄想↑しちゃうほど、リンクする部分があるなって。
それではお口直しに一曲どうぞ