独身時代に戻りたいわけじゃない。
けど、ひとりになりたい時がある。
そんな時は、私しか知らない秘密のアンダーグラウンドへと姿を消し、
気が済むまで出てこない。
「おかあさんはどこ?」と息子が心配そうに聞いても
夫は落ち着き払ってこう答える。
「当分戻らないけど、お母さんは楽しくやってるんだ。
だから、こっちも二人で楽しもうぜ」
妄想がとまらなくなりそうなので、この辺でストップ。
引きこもれるアナグラはないが、ブースならある。
間口80㎝ほど、袖壁の間に天板と可動棚。
これだけだが、紛れもなく私だけのスペースである。
壁に囲まれたこの場所に座ると、なんだか落ち着く。
明るすぎず、暗すぎず。ほどよくお籠り願望を満たしてくれる。
家でひとりの時は、ここでランチを食べながら本を読んだり、
海外ドラマを見たり。
お行儀など気にしない。
余計なものが目に入らないから、しなければならない家事も
しばし忘れる。
一般的には「ミセスコーナー」なんて言うのだろう。
けれど私には、ミセスを忘れて、妻でも母でもなかった頃に戻る場所。
それはほんの少しの時間でいい。
魔法がとけなくなったなら、やはり悲しいのである。