料理のうまい友人がいる。
いつもなにか美味しいものをこしらえている。
紫キャベツの酢漬けや、自家製の沢庵なんかを出してくれるが、
これがまたうまい。
シンプルな料理ほど、ごまかしがきかないものだ。
私は、彼女の腕は確かだと思っている。
彼女がニューヨークに住んでいた頃は、松前漬けやら
豆腐やらを手づくりしていた。
どれも買ってくるものと思っている私は、
その話を聞いた時とても驚いた。
「自分でつくれば、たくさん食べられるじゃない?」
あっけらかんと言っていたけれど、
食への執念さえ感じて私はおののいた。
こんなにうまいんだから、料理教室をやれだのYouTubeで配信しろだの、
いろいろとそそのかしてみたが、人に教えるのは面倒らしい。
「あたしの料理、全部目分量だから」と返ってくる。
醤油を大さじ3、砂糖を小さじ2分の1、なんて
いちいちレシピをまとめるのが、まどろっこしいのだろう。
私の料理は、切るだけ、焼くだけ、煮るだけを信条としている。
主婦歴ウン十年だが、いまだに計量スプーンが手放せない。
そんな私からすれば、彼女の才能はすごいと思うのだが、
本人は、自分に才能があるなんて小さじ1杯ほども思っていないのだった。
好きだから続けている。
誰かに認めてもらいたいとか、人の上に立ちたいとか、
そういうことは考えない。
なかなかに最強な生き方である。
料理は教えてくれないが、他のことはいろいろ教えてもらった。
たとえその自覚が、彼女になかったとしても。
思えば数少ない友人たちを、私は尊敬している。
「人生でラッキーなことベスト3」に入るくらい、幸運なことだと思う。