昔、くじらぐもにのりたかった

暮らしとインテリアと、時々雑談

大根食べたい

学生時代に所属していたワンダーフォーゲル部は、

冬になるとスキー合宿をするのが恒例だった。

ザックとスキー板を担いで夜行列車に乗り、信州へ。

その頃のスキー場は、ユーミンの流行りのゲレンデソングが流れ

オシャレなスキーウェアに身を包んだ若者たちで賑わっていた。

 


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だけど、私たちの拠点はスキー場ではなくて

さらに山を登った先にある、大学のヒュッテ(山小屋)。

ヒュッテの周辺で 山スキーをするのが目的だった。

 

まずはリフトを乗り継いで、スキー場のてっぺんを目指す。

身長の半分はあろうかという大きなザックを背負った女の子は

オシャレなスキー場では浮きまくっていただろうけど、

当時は恥ずかしいというより、みんなと違うことをしているのが

楽しかったから気にしなかった。

 

ついにリフトがなくなると、そこはコブだらけの上級者コースだ。

登山口には、デコボコの急斜面を横切らないと行けなくて

この時はさすがに緊張する。

上級者のスキーヤーの邪魔にならないように(完全に邪魔だったと思うけど)

超低速で滑る。

うっかり前傾姿勢になりすぎると、ザックの重みで思った以上に加速してしまう。

一度転ぶと、起き上がるのが大変で体力を奪われる。

「ぶつからないでよー。転ぶなよー」

と祈りながら、なんとか登山口まで辿り着く。

 

そして今度は、スキー板の裏にアザラシの皮でできた「シール」と呼ばれる

滑り止めを貼って山を登っていく。

ズリズリと摺り足で、くねくねの坂道を地味に進む時間は

とてつもなく長く感じられた。

ようやくヒュッテが見えた時は、心底ホッとしたものだ。

 

山小屋といっても、2階建で雪の重みにも耐える頑丈なつくり。

お風呂こそないけれど、台所やトイレがあり

2階は 大勢で雑魚寝できる広い部屋がある。

 

重たいザックの中身はといえば、ほとんどが食材だ。

山小屋で過ごす一週間の献立を考え、なるべく重くならないように

するのだけど、献立担当の私が絶対に外せなかったのが「おでん」。

雪山であったかいおでんを食べたい。

その一心で、ここまで頑張って来たのだ。(スキーがメインだけどね)

ザックを開けて、真っ先に卵が割れていないか確認した。(何回か転んだので)

大丈夫だった。

後からOBやOGもやってくるから、ちょっと多めに仕込んでおこう。

 

鍋に出し汁を入れ、大根を炊いておく。

別の大鍋で出し汁を温めて大根を移し、ゆで卵やこんにゃく、

昆布に竹輪に練り物いろいろ。

最後には やっぱりはんぺん。

あー、いい香り。もう完璧!

 

「おぅ、おでんか!いいねー」とみんなの歓声が聞こえる。

でしょう?そうでしょう?

軽く後片付けをして、私も遅れてテーブルにつく。

豪快に大鍋ごと出したから、柄の長いおたまで具を掬い上げる。

卵、いい色になってる!

つみれとはんぺんもいい感じ!

それから、えーっと…

いくらおたまで探っても、あれがない。

いちばん好きな具、大根が!

次の瞬間、私は叫んだ。

「ちょっとー‼︎ 私の大根どこー?」

 

あれから三十年以上経ったというのに、まだあの時

大根にありつけなかったのを忘れていないのは

食べ物の恨みというやつだろうか。

まぁ、確かにその日の晩はブーブー言ったけど

今となってはいい思い出だ。

 

まだ日中は暑い日もあるのに、どうして冬山のことを思い出したかというと

スーパーのおでんコーナーが目に入ったから。

(夏の間もあったかな?)

陽が落ちると肌寒くもなってきたし、そろそろいいかな。

明日はおでんにしよう。

大根をたっぷり入れて。