石というものに、どうしても惹かれてしまう。
一時、鉱物にハマったことがあるが、いまは落ち着いている。
というか、落ち着くように努めている。
鉱物の世界は、広すぎて深すぎるのだ。
ある程度のところで満足しないと、家中、石だらけになる。
それはイヤだから、もう鉱物のお店は覗かない。当分はね。
鉱物にハマるずっと前から、川原や海辺で好みの石を探すのが好きだった。
子どもが生まれる前は、旅行先でよさそうな水辺があると夫婦で探した。
私が石にうるさいので、そのうち夫が「これはどう?」と石の審議を仰ぐ
ようになった。
「それは叙情的でなかなかよい」とか「それは悪くはないがいまひとつ」
とか言って、私はにわか番長になった。
そうやって拾ってきた石をきれいに洗ってにおいを嗅いでみると、
大抵は無臭だが、時折、石の故郷の香りがする。
土とお日さまと、流々とたっぷりある水のにおいが混ざったような香りだ。
気に入りの石たちを、いつでも触れるところに置いている。
気が向くと、じゃらじゃらと無造作にかき混ぜて偶然の配置を楽しむ。
たまに石の香りを嗅ぐ。
その時だけ、「連れ帰ってしまってごめん」という気持ちになる。